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播州三木鉋鍛冶三代目
鍛冶銘 鉄心斎芳楽


三木の鉋鍛冶の歴史
鍛冶屋言葉


三木市史・その他より

鍛冶屋が軒を連ね鍛冶職人の多い町三木では独特の言葉が使われてきました。
また鍛冶職人だけに通用する鍛冶屋言葉も有ります。それらを集めて紹介したいと思います。主に鉋鍛冶の言葉です。

 殺し前(ころしまえ)

鍛え鍛冶(きたえかじ)などで使われた言葉です。鍛え鍛冶は午前2時から午後3時まで6人1組で仕事をしていました。大鎚を長い時間打ち続ける先手は特に重労働で、途中落後する人が出る時もありました。その時その人の日当は無くその人の分は残った人で分配する、その取り分の事。 仕事中落後者を出さないようにする意味も有ったのだろう。

 バンク(晩駆?)

徒弟制度の時代鍛冶修業中に鍛冶屋も親方の家から無断で家出する事。
辛くて逃げ出したという意味とひと通り技術を習得した職人が、他の鍛冶屋の親方の仕事も覚えたいと家出する意味も有り、親方になった人はバンクした事を自慢するそうです。
関東では渡り職人の事を「西行」と言うそうですが、バンクと同じ意味も有るのかなあ?

 先カド入れる

借金を踏み倒す事。「先カド入れてバンクする」こんな事もあったようです。

 柄振(エブリ)を揚げる

柄振とは鞴(ふいご)の柄を押したり引いたりして鞴を使う時、柄に着いている木の取っ手の事。揚(あ)げるとは鞴から外す事。これを外すと鍛冶屋の仕事が出来なくなる。 ストライキの代名詞で鍛冶屋仲間が問屋衆に対して、値上げ要求が通らなかった時言った言葉

 坊主 
玉鋼を使っていた頃、炭素量の特に低い玉鋼で鉋を作り、焼入れをしても焼きが入らなかった鉋の事。
 まま

 ご飯の事。鍛冶屋の家では火窪でご飯を炊く事が多かった。横座は鞴を左足で使ったので「嫁に行くなら鍛冶屋に行きゃれ、足でまま炊き手で金伸ばす」などと言われた。

 スコ

2級品の事。何か理由があり普通の価格で売れない鉋。 

 くすり(薬)

 鉄と鋼を鍛接する時に使う接合剤の事。鉄蝋とも言う。市販されている接合剤をそのまま使う事もありますが、ほとんどの鍛冶屋は市販された接合剤に鉄粉・ホウ酸・ホウ砂を混ぜて作ります。その割合は鍛冶屋によりいろいろです。山本鉋の薬は以前は鉄粉を入れていましたが、今は鉄粉は入れずホウ砂を主にホウ酸を少し入れます。 これらを配合してくすりを作るのは現役を退いた親方の仕事で、父勝三が鍛接をしている時は祖父喜市が作り、私が鍛接をする頃になると父勝三が作っていました。 今は自分で作っています。

 オチ(落ち)

鉋の身は頭の部分と刃先の部分では厚みが違います。その比の事。「オチ」が少ない鉋とは頭と刃先の厚みがあまり変わらない鉋の事。 私は鉋の「オチ」は頭と刃先で3:2が標準だと思います。

 ヌケ(抜け)

 鉋の身は側と中心部では厚みが違います。その差の事。私は1mm前後が標準だと思いますが鉋鍛冶によりいろいろだと思います。鉋台屋さんによると鉋の頭の方が、刃先よりヌケは少ない方が仕込みにいいそうです。

 ベタ裏

 鉋の裏が押し過ぎて裏の平らな部分が広くなった鉋の事。鉋を使っていて裏出しをせず、裏を削って使っていて裏の押した部分が広くなった鉋の事。使い方が悪いとなります。

  セン

鉋の表面を削る道具。鉋を?床台に固定して裏や甲を押して削り取る道具で、削る場所によって幅の広い物や狭い物もあります。

 セン床場(せんとこば) 

セン床台と木床と金床がセットになった先手の仕事場。鉋の鋼直しから均し作業・成形作業・刻印打ちまで先手の作業をする所。

 メスキ(砥石)

刃研ぎに使う荒砥石。鉋の刃を付ける時に使う荒砥石で、使った後にできる泥は焼入れの時、鋼の部分に塗る最適の泥です。

 マクリ(砥石)

生研ぎに使う荒砥石。焼入れの前処理として鋼の部分に、焼き場土が落ちない様に深く研ぎ目を付ける砥石です。使い古しを?の刃研ぎに使っていました。

 ナカオ(砥石)

焼き研ぎに使う荒砥石。焼入れの後、生研ぎの黒い研ぎ目を消すために使う荒砥石。 表面に金剛砂を置いて磨きました。これで焼入れの焼きムラがよく分かります。

 素灰(すばい)

炭の粉の事。鍛接・鍛造の時の炭や焼きいれの時の炭は、大きな炭を割って作りますがそのときに出来る炭の粉。

 サシガネ 

長さを測る道具の事。 一尺に寸・分の目盛りがある。今はステンレス製ですが昔は鉄か鋼だった。

 ネジガネ

鉋の歪みを取る時に使う小さい銅片の事。捻りを取る金属という意味です。

 手が決まる

鉋鍛冶の仕事に入った頃は寸法どうり削るとか端がダレない様に削る事がまだ出来ません。数が多くても規定どうり正確に作業出来る手の感覚を持つ事を「手がきまる」と言います。

 ハンマ−の口

鉋を鍛接鍛造する機械ハンマ−の上床と下床の事。
鉋鍛冶の機械ハンマーの上床と下床は、鉋の形に鍛接しやすく鍛造しやすい形になっています。数多く鍛接鍛造をすると上床も下床もへたってきて、うまく鍛接鍛造作業が出来なくなります。
そんな時「ハンマーの口が悪くなったな。口を直そうか」という様な話をします他の鍛冶屋さんがこんな言い方をするのか聞いた事はありませんが、親からよく聞いていた話しです。

 へたる

悪い状態の事。「金床がへたる」とは金床を使い過ぎてくぼんでくる事をいいます。 「焼刃がへたる」とは焼き入れ作業が思う様に出来なかった事をいいます。これは鉋鍛冶の今井さんから聞きました。

 鍛接・鍛造に関する言葉
 横座(よこざ)

鞴(ふいご)を横に据えた火窪(ほくぼ)の前に座り弟子の大鎚を受けて、鉋の鍛接や火造作業をする人の事。鍛冶屋の親方の事を横座とも言う。鍛接や焼き入れなど切れ味に直接影響する火を使う仕事を横座仕事と言う。

 
 先手(さきて)

鉋の鍛接や火造作業をする時、横座の指示を受けて大鎚を打って作業をする人。  先手の使う大鎚を「向こう鎚」と言いこの作業は弟子の仕事だった。横座から見て左の先手が主(おも)と、右の先手が二番(にばん)と呼びます。関東の鍛冶屋では先手の事を「向こう打(ぶ)ち」と呼んでいたそうです。

 相鎚(あいづち)

「相鎚を打つ」とは相手に同意を示したり、話に調子を合わせる事を言うが、「相鎚」を広辞苑では「鍛冶で弟子が師と向かい合ってお互いに鎚を打つ事」とあり日本職人ことば事典では「鍛冶屋の親方がカナヅチを叩いて向こう鎚に合図する事」とあり意味が少し違います。                        

三木の鉋鍛冶では相鎚とは「横座(親方)と先手(弟子)が鍛接や火造作業の時、先手の向こう鎚に合わせて横座が打つ鎚の事」と言われています。

これは先手が調子よく向こう鎚を打てる様にするため。

 差し
鍛接作業の時先手は普通主(おも)と二番の2人が作業しますが、親方と先手が1対1で作業する事を「差し」と言います。
 とつぼ

横座の使う金床の横にある水桶の事。鍛造火造りの水打ちする時水を差したり、熱くなった金箸を冷やす為の水桶。

 火窪(ほくぼ)


鞴を使って炭の火を起こし材料を加熱する炉。金床などと共に鍛冶屋の重要な設備。ほど(火床)とも言う。
 水打ち(みずうち)


鉋の鍛接や火造(ひづくり)作業の時、表面の酸化鉄を取る為に少しの水を金床と鉋の間に落とし、鉋を叩いて水蒸気爆発をさせ酸化鉄を吹き飛ばす作業の事。

唱歌【村の鍛冶屋】の「飛び散る火花と走る湯玉」の走る湯玉とは水打ちする時、鉋の上に乗った水が丸い球になって転がる事を言う。 

 ツケ 

鉋鍛冶では鍛接作業の事で鉄と鋼を引っ付けると言う意味。

 のた打ち

鉋の鍛接作業の時、横座が先手の大鎚や機械ハンマーを使って鍛接する前に、小鎚を使って鋼を仮付けする事。

 ベト

鍛接や鍛造の時鉋を加熱した時できる酸化鉄の事。

 頭をいれる

鉋の頭を火造りする事。鉋の頭の成形は普通研磨砥石で形を作りヤスリやバフで仕上げますが、他に鉋の頭を加熱して小鎚で叩き火造りの状態のまま仕上げる事があります。その時頭を小鎚で叩き形を整える事を頭をいれると言います。

 焼き入れに関する言葉
 火取り(ひどり) 

温度の事。焼き入れなどの時温度は鉋の色で判断したのだがその色の程度の事。「もっと火取りを低く」などと言った。鍛冶屋の親方にとって一番必要な技術です。

 くも(雲)

焼き入れした後の完全に焼きの入っていない部分の事。鉋仕上げの最終作業の木砥当てした時鋼の表面に白く見える所。

 うます

  入れをする時の保持時間の事。鉋の焼き入れの時、焼き入れ温度に上げてからある時間保つのだがその時間の事。短いとくも(雲)が付きやすくなります。三木の鍛冶屋では「うましが足らん」「もっとうませ」などと言った。

 こごみ(かがみ)(ひく)

鉋を焼入れした時変形した程度の事。鉋を焼入れすると全体が緩やかに裏の方へC形に曲がりますが、その大きさでこごみが小さいとか大きいと言います。 

 焼刃(やきば)

 焼き入れ作業の事。焼き入れ炉の火を起こし鉋に泥を塗り、焼き入れした後泥を落とし歪を取るまでの焼き入れ行程全体作業の事をいいます。

 地鉄に関する言葉
 地金屋(じがねや)

錬鉄を鍛造して鉋の地鉄を販売していた業者の事。大正から昭和の3・40年まで鉋鍛冶は材料の地鉄を地金屋から購入していました。地金屋は鉋に使える錬鉄を探してきて、地鉄の寸法に鍛造して販売していました。 祖父喜市は大正の終わり頃製品の鉋を問屋へ納めた後、地金屋へ寄って地鉄を5・6本買って帰ったそうです。

 シマ   

鉋の地鉄は錬鉄を使いますが、錬鉄を造る時に残った薄い鋼の層の事。刃付けしてこれが出ると2級品になります。シマの鉄とは鉋にとって悪い鉄の事。関東の方では「ツラ」と言うそうです。

 カタ

(地鉄中央の白い部分)

 シマは刃の部分に鋼が薄い層で出ますが、これが細長い楕円形や丸く広く出るとカタと言います。裏押しの時裏出しがし難く鉋にとって最悪の鉄。

 ジョストン

  (耳の部分)

錬鉄で作られたT形構造材の事。中の部分を中板、端の部分を耳と言う。

シマがほとんど無く鍛造すれば最高の地鉄になります。 なぜジョストンというのか分りませんがこの様な錬鉄は、何か字が浮き出て読める事があります。昔こんなT形構造材にジョストンと読める物があり、それでこの形の錬鉄がジョストンと呼ばれる様になったかもしれない。

鋼材屋さんのMさんの話です。

ジョイストというのは欧米では木造建築の屋根や床梁に使うIビームの事です。ここから使い方が似ているI形鋼の事をジョストンと呼ぶ様になったのではないかと。

 スイツル

錬鉄ではなく現代鉄の事。学校工作用や素人用鉋の地鉄に使われていますが本職用には使いません。錬鉄に較べて砥ぎにくい鉄です。 

 荒地(あらじ)

鍛造する前の錬鉄の事。ジョストンの中板や10mm位の錬鉄の板は、そのまま切断して鉋にする事もあります。

 釜地(かまじ)

昔から鉋の良い地鉄の代名詞になっていました。古い船の錬鉄で出来たボイラーを解体した鉄だと云われてきました。いろいろ調べてみると、パドル鉄の中のノッブル鉄でボイラー管を作ったらしいので、ノッブル鉄の事かもしれない。

 ローモール

俵国一さんの「鉄と鋼製造法及性質」の本によると、イギリス産の最上等品のパドル錬鉄です。新潟では刃物の地鉄として使っていたそうです。土佐や会津でも使っていたと本に書いてあります。 しかし、三木の鍛冶屋には入って来なかったと思います。

 ホンスイ

上記の「鉄と鋼製造法及性質」に本スイツルとはスェーデン産木炭錬鉄と書いてあるのでこの事だろう。 これも、三木では聞いた事が無いので入って来なかったのではないだろうか。

 刃研ぎに関する事
 裏押し

   鉋の刃を付ける事。鉋の裏は浅く窪んでいるので甲の方から裏出し鎚で叩き出し、刃先の裏に細い平面を作る。これを裏出しといいその後刃を付けるのだが、鉋鍛冶は刃付け作業の事を裏押しと言う。

 糸裏

    鉋の刃研ぎは裏の刃先と側の辺りを平面に研ぎます。その時刃先の部分を細く糸の様に細く研ぐ事を糸裏という。    押金の無い一枚鉋で使う時は糸裏の方がいいそうですが、二枚鉋では影響は無い様です。

 ボヤ取り

   昔は鉋鍛冶から出す鉋は完全に刃を付けていませんでした。角刃も取らず刃先まで完全に刃を研がず、刃も荒砥で削った後 砥石の粉で磨いて鋼と地鉄をはっきりさせただけの刃付けでした。これをボヤ取りといいます。    私が職場に入った頃から本刃付けといって完全に刃を付ける様になりました。

 金盤押し

    普通研ぎ屋さんで研いでもらった鉋刃の裏は使える状態になっていません。実際に鉋を使おうとする時、刃先の裏を鉄を平面に削った金盤 の上に細かい金剛砂を振り、その上で鉋刃を研いで裏を鏡の様な平面に仕上げます。  この作業を金盤押しといいます。この頃金盤の代わりに合わせ砥を使う事もあるそうです。

 裏出し

   鉋刃を刃研ぎする場合裏が浅い曲面になっているのでそのまま刃を研いでも真っ直ぐな刃は付きません。鉋刃を甲の方から叩き出して刃先を直線にする必要があります。裏出し台と裏出し鎚を使って裏を叩き出す事を裏出しといいます。

 

   刃研ぎをすると裏は刃先と側が削れます。その時両側の側の部分の削れた跡を足といいます。 普通は細く同じ幅で削れますが、一部分が太くなったり細くなったりすると「足ののり」が悪いといいます。

 墨が入る                                                                                                                               

刃研ぎをした後鋼と地鉄の間に黒いものが細く残る事があります。鍛接の時叩き出すものが少し残った跡です。    これを「墨が入る」といいます。ほとんど使うには問題はありませんが、見た目が悪いので思案するところです。    ある意味鍛接温度が低いとなりやすいので、よく切れるかもしれません        

 角刃

   鉋刃は鉋台に仕込むと両側は台の仕込み溝に入るため、入る角の部分を削り取ります。 この部分の事を角刃といいます。

 ケチリン

   鉋刃の角刃を取った後刃先を完全に一直線に刃を研いで鉋を使うと、削った後わずかですが段差が出来ます。   そのため刃先の両側2.3mmくらいを極浅い曲面に研いで段差が出来ない様にします。 その極浅い曲面の部分の事をケチリンといいます。

 かえり

   金盤を押して刃を研いでいると刃先に削れた部分が出てきます。この部分を「かえり」といいます。 合わせ砥で出た「かえり」が取れず、裏から合わせ砥で研いでも「かえり」が取れにくい鉋刃はちょっと硬度の低い鉋刃です。 「かえり」の出方取れ方で鉋刃のいい悪いが少し分かります。




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