鍛冶屋のつれづれ書き
                 黒田家文書                山本芳博

三木で二百五十年続く金物問屋の黒田清右衛門商店に残る古文書の中で、重要な文書は「三木金物問屋資料」として
本になっています。他の文書も三木市教育委員会によって、整理分類されて冊子になっているのを三木市立図書館で
見つけました。古文書の数は千点を越える様です。その中で三木金物や鉋に関する事の文書を探し、その文書を
黒田清右衛門商店さんに見せてもらいました。


  明治十四年 鉋鍛冶為取換(鉋鍛冶盟約取換書)
     


 一條から十二條まであり毛筆で崩し字で書いてあり読み難い。他国より弟子をとらない事や、他国よりの出稼ぎ

人を撮り取り締まる事など、問屋が他国の人が道具鍛冶を覚える事への警戒心がうかがえます。景気不景気の時
協議する条項もあります。他に連語會という會がなんの會か分からないが、だいたい意味は分かります。
鉋鍛冶小山清治郎と石井真吉と平井鐵蔵の三人が、明治十四年十二月一日に金物仲間へ出した文書です。
 この文書の主な点は鉋鍛冶三人は、西洋鋼と鐵を一切扱いませんという事を金物問屋仲間へ誓約した事です。
前の年の明治十三年に井筒新吉によって西洋鋼(洋鋼)が、三木にもたらされ多くの鍛冶屋が洋鋼洋鐵鉄使い始めた。
しかし我々三人は今まで使っていた和鋼和鉄を使って鉋を作るという誓約書だ。鋸鍛冶も同じ文書があるので幾人
かの鋸鍛冶が盟約取換書を出しているのだろう。
 しかし明治十四年に盟約書を取り交わしたが、何時まで三人の鉋鍛冶が和鋼和鉄を使っていたか分かりません。
時代は洋鋼錬鐵を使わざるを得ない時になってきていました。三人の鉋鍛冶もそれほど長くない頃から洋鋼錬鐵を
使って鉋を作っているはずです。
 石井真吉と平井鐵蔵は初めて見る名前です、平井鐵蔵は平井鉄之助の親だろう。共に明治三十六年の鍛冶名簿に
載ってないので、この時には鉋鍛冶はもうしていません。するとこの二人は江戸時代からの鉋鍛冶だったかも
しれない。
 洋鋼が出始めた頃今までの和鋼和鉄を使う鍛冶屋と、新しい材料である洋鋼錬鐵を使う鍛冶屋に別れたのだろう。
和鋼で鉋を作る場合玉鋼を折り返し鍛錬をして鋼を作る。洋鋼の場合はただ鍛造して延ばすだけで鋼になる。
かなり労力ば省けるので生産量は増えるだろう。結果的には三木の鍛冶屋は洋鋼を使い始めたが、品質が悪くなり
三木金物の評判を落としてしまった。4・5年後には生産高が明治十三年の三割くらいまで落ちてしまい、鍛冶屋や
職人が半分くらいになってしまったらしい。三木の問屋も鍛冶屋も必死になって洋鋼で刃物の作り方の研究をした
のだろう、やっと明治二十三年頃に十三年の生産高に回復しています。〔伝統産業の成立と発展〕 

 
    明治三十三年 鉋鍛冶藤原滝蔵の通(かよい)


     
 通とは鍛冶屋が原材料から副資材まで全てを問屋から支給されて道具を作っていた頃、鍛冶屋ごとに問屋から支給

した物品と金額、鍛冶屋が納品した道具の金額と鍛冶屋が受け取った金額を月日ごとに記入した通帳です。
明治三十年井上徳太郎 明治二十七年石井真吉 明治三十三年藤原滝蔵 明治三十五年上田福松 明治三十六年
吉田兼吉の鉋鍛冶の五通の通がありました。明治三十三年の藤原滝蔵の通に黒田商店が藤原滝蔵に渡した物品が書いてある。
 
 鋼であるスタル、地鉄の釜地、焼き入れ用燃料である栗炭。スタルは角棒で鍛冶屋が鋼伸ばしをして薄くして鉋の鋼
にしていた。八幡製鉄所が操業を始めたが明治三十四年でまだ日本で溶鋼が作られていなくて西洋鋼を使っていたのだろう。
地鉄に釜地を使っている事はもう和鉄を使っていなかった、この頃は和鉄の生産量は少なく価格も高かったのだろう。
その頃すでに三木に錬鉄を探してきて、鍛造し釜地を作る鍛冶屋が居たのだろうか。
 大正時代は鉋の地鉄は鍛造屋が錬鉄を探してきて、鍛造して錬地金とか錬釜地として作って鉋鍛冶が購入しています。
釜地とは今の呼び方と一緒です、問屋が支給したのは鍛造する前の錬鉄かもしれない。
黒田文書から江戸時代からの鉋鍛冶を考えると石井真吉・平井鐵蔵・井上徳太郎・上田福松の四人が可能性があります。

  
   明治三十六年鍛冶名簿

       

 三木の鍛冶屋名簿で今残っているので一番古いのが昭和三年の美嚢郡工業懇談會々則の名簿です。大正時代の

鍛冶名簿はなく明治三十六年の鍛冶名簿は貴重なものです。この名簿は黒田商店が独自に作ったものらしく、自分が
残さなければいけないという、三木の老舗金物問屋としての自負が感じられます。この鍛冶名簿で分かるのが
一般の人が使う剃刀と鋏の鍛冶屋がすごく多い事です。この頃の金物小売店は本職用の大工道具から、鋏や剃刀
などの家庭金物も扱っていたのだろう。剃刀鍛冶が七十五軒で鋏鍛冶は九十八軒もあります。
これらの鍛冶屋は加東郡の人が多い。筆書き文書で読めない字もあるのでそこは字を抜いています。

鋸八十軒 鉋二十三軒 鑿四十五軒 剃刀七十五軒 鋏九十八軒 洋刀十一軒 前挽五軒 鎌二十七軒 
度器生地五軒 鉋裏押十四軒 毛抜五軒 鋁十一軒 口鐵二十五軒 鋸目立て十六軒 雜品二十三軒 

鉋  二十三軒
黒川卯太郎 小山清治郎 藤原滝蔵 吉田兼吉 増井浅吉 岩井作太郎 小谷寅蔵 山田兵太郎 平井鉄之助 
  ○     ○    ○               ○          ○     ○
 生田定吉 藤永作太郎 井筒合名会社 中本覚蔵 青田仙太郎 中西卯之助 木下梅三郎 上堀藤蔵 井上文吉 
                          ○     ○   木下為次郎                  
田中米三郎 田中熊次郎 杉山伊之助 森本音吉 藤田彦三郎  
               ○    ○   藤田藤太郎
 名前の下に○印のある人は昭和三年の鍛冶名簿に載っている人です。名前があるのは親子ではないか。
青田仙太郎がこの年の鍛冶名簿に載っているのは以外です。黒川卯太郎の一番弟子は魚住福三郎だと聞いて、
青田仙太郎その弟弟子だ思っていました。魚住福三郎は明治四十五年に創業しています。鉋鍛冶を始めたばかり
なのでこの名簿に載ってないのかもしれない。この名簿からいえるのは青田仙太郎が黒川卯太郎の一番弟子か
それとも黒川系統の人ではないかもしれない。
鋸   八十軒
 羽田源之助 野田寅吉 廣田秀太郎 久保田幸吉 室谷寅之助 進藤元治郎 末松亀太郎 藤村磯治郎
 本岡安太郎 吉井熊太郎 吉田市松 清水常太郎 山本元吉 小林万吉 山本文吉 廣田源吉 仲島由太郎
 小島安吉 小河善太郎 廣田定吉 廣田傳吉 時澤菊松 吉田栄吉 秋田熊太郎 久米安蔵 藤原松太郎
 廣田寅吉 戸倉芳松 清水勝治郎 林 兼吉 高見力松 赤松幾三郎 長谷川吉蔵 山口甚吉 遠藤元治
 杉原範之助 赤松藤松 鎌谷兵吉 廣田市松 廣田徳治郎 廣田弥右衛門 吉川幾治郎 津村徳治郎 廣田石蔵
 鈴木徳三郎 競貞治郎 井筒合名会社 生田福松 平井 松 三枝実之助 祈市三郎 井上福蔵 近藤源三郎
 神沢濱蔵 吉田慶治郎 前田正太郎 五百蔵安太郎 五百蔵房吉 神沢友吉 近藤市松 津村兼蔵 神沢幾三郎
 金口伊三郎 金口藤太郎 横田佐吉 小林音太郎 小林熊吉 澤田福之助 小林 吉 山口音吉 清水  郎
 三宅平三郎 吉岡武蔵 宮本源吉 森本菊松 宮崎三之助 村上庄太郎 栗田政吉 栗田勝蔵 末廣藤三郎
鑿  四十五軒
 高芝又市 五百蔵古太郎 高橋浅吉 大内光太郎 藤原増蔵 梶本藤太郎 中本祐太郎 小山友太郎 井筒合名
 中谷福三郎 宮脇浅七 近井菊蔵 岩谷亀三郎 西森亀三郎 和田七平 北村定吉 北村秋三郎 鳴尾弥一郎
 東中吉太郎 山田猪蔵 宮脇 太郎 宮脇市太郎 宮脇   田中安太郎 磯野平吉 三宅 蔵 宮脇  郎
 三宅徳三郎 宮脇鉄蔵 宮脇石松 礒野又吉 西田太吉 礒野松次郎 向山勝三郎 佐藤儀一郎 岩崎種市
 山本広市 岩崎重三郎 八木光蔵 沢井徳三郎 谷口 三郎 高崎宗三郎 守沢彦三郎 正井亀三郎 高田彦三郎
剃刀  七十五軒
 守勝次郎 梶原幾三郎 横山政治郎 平石甚吉 山北 光蔵 阪田佐吉 梶原栄三郎 梶原百蔵 大橋大三郎
 大橋政吉 生田元吉 平井熊吉 木下太蔵 門弥三郎 中西幸太郎 長谷川情太郎 三宅又蔵 藤田弥三郎
 藤原康蔵 吉永信三郎 藤原長太郎 藤原直太郎 藤原亀蔵 稲岡周吉 高田幸太郎 田中仲六 藤原松之助
 藤原善吉 藤原鶴松 宮本右吉 藤田清吉 生田芳松 生友弥三郎 宮脇滝三郎 前田芳松 宮脇駒吉
 宮脇政治郎 宮脇長太郎 谷川与三郎 生友市松 宮脇福松 池田弥太郎 宮脇松良吉 田中 治 永池作太郎
 阪田滝三郎 宮永清吉 宮永捨松 藤原丑之助 平野萬吉 蓬莱岩吉 松田元吉 井上伊太郎 宮永猪三郎
 田中友吉 田中傳太郎 田中善蔵 井上万吉 田中伊三郎 田中浅之助 田中喜太郎 田中久吉 田中清太郎
 田中真治 田中幸吉 田中幸吉 田中重太郎 田中仙太郎 田中熊市 田中喜市 田中源吉 田中万吉
 田中真治 田中 之助 藤原熊蔵
鋏  九十八軒
 藤田八五郎 糟野巳之助 糟野繁治郎 岡田慶三郎 廣田亀松 池田吉松 西垣貞吉 池内岩太郎 西垣大吉
 井上大吉 西垣留吉 井上熊太郎 西垣辰蔵 池内梅吉 末廣 たろ 岡本源之助 池内弥吉 中川重松
 小林九蔵 藤原城三郎 藤原伊作 藤原寅太郎 吉岡豊蔵 藤井房太郎 藤井仙太郎 藤井宗  藤与作
 岡田貞一 大西忠太郎 志波春吉 西尾寅吉 井上筆吉 山本作蔵 阪本徳太郎 廣定源吉 水池常次郎
 岡田豊次郎 林松治郎 岸本鉄蔵 佐伯鶴市 柏野栄太郎 藤原熊吉 井上式治郎 井上宗太郎 井上甚三郎
 武内定助 水池清次 水池恒吉 水池寅吉 水池房吉 水池鹿蔵 水池清蔵 廣野松治郎 永本弥三郎
 井上新吉 三輪房吉 多鹿卯三郎 多鹿源之助 玉井芳松 玉井浅吉 藤原寅八 藤原鶴市 進藤作太郎
 小紫善治郎 進藤岩吉 小林定治郎 青木嘉作 萩原喜作 河島録助 河島栄治 藤本 松 向井為吉
 藤田亀吉 吉岡新助 西尾庄蔵 田中幸太郎 賀内精三 富岡清太郎 進藤光房 大西吉蔵 藤原 三郎
 藤原杉松 阪田寅三郎 芝本長三郎 藤川嘉吉 井上鶴松 藤川久吉 唐井源七 杉山久太郎 増井元吉
 宮本太作 服部仲蔵 室谷房吉 元倉市蔵 渡瀬巳之助 筒井源治郎 奥田友治郎 木梨種市   
洋刀(肥後守) 十軒
 村上貞治 永尾駒太郎 宮本太作 小阪弥三郎 山本甚助 山口亀吉 阿部松平 岡田信太郎 市山謙一
 藤井輿作 
小刀  十一軒
 平井卯之吉 平井作治郎 石崎 之助 西垣寅吉 西垣常吉 近藤源六 西森松蔵 澤井捨松 村上 倉
 小倉源吉 平井 蔵
前挽  五軒
 井筒合名 大内六五郎 岩佐六助 小川伊右衛門 山田金蔵
前挽透き  七軒
 小川伊右衛門 森本定吉 杉原七蔵 上石嶟蔵 松本松三郎 橋爪国太郎 山口文蔵
鎌  二十七軒
 井上太吉 田中春吉 池田直吉 藤原亀三郎 横田 吉 宮脇 吉 宮脇兵太郎 宮脇信太郎 宮脇大蔵
 茶屋新治郎 向井傳蔵 稲岡利市 宮脇種吉 藤田幸助 平岩 太郎 藤田清   藤田又市 田中宗六
 末衛 六 河合重松 宮脇敬治 市橋喜代治 富田余太郎 富田作治 富田芳太郎 松尾弥吉 松尾泰之助
度器生地  五軒
 小林作蔵 永池音松 小林信蔵 正井周吉 高田 吉
鉋裏押  十四軒
 藤田藤太郎 井上清吉 石田市太郎 魚住幸吉 高濱作松 清水寅吉 末廣秀太郎 梅本芳太郎 井上秀昭
 廣田芳太郎 井上喜太郎 福田幸太郎 水池六之助 末 八十七
毛抜 五軒
 永尾政七 清水重三郎 久保田 松 山本百五郎 高田嶋三郎
鋁(ヤスリ)  十一軒
 近田善吉 室田亦弘 長谷川丑之助 細川源三郎 廣田熊吉 大野亀次 河合巳之助 井出仙吉   源三郎
 守澤安太郎 正井重吉
口鐵  二十五軒
 原田音吉 神沢安吉 山中百太郎 中本富蔵 光川鶴蔵 本岡真吉 今井善太郎 山田大吉 大瀬守之助
 玉岡玉松 石田勘次郎 池見熊吉 石原豊松 宮田松吉 砂川捨松 桑村信吉 長谷川三五 高尾文吉
 前田真吉 戸田重吉 田中市太郎 田中辨造 藤田善太郎 田中力松 藤田太吉
鋸目立て  十六軒
 西岡栄吉 吉永孫八 中村源吉 吉田松助 石田庄太郎 和住種吉 岡部定市 古田祐二郎 正井幸吉
 藤田理平 井上友三郎 井上秀吉 栗田徳松 森本繁治 宮本丈助 山口亀吉    
雜品  二十三軒
三栄商会支店 池田康太郎 石田又平 日本覚蔵 黒田民三郎 中嶋秀吉 今福 松 横山由松 大西与 和
 赤松社太郎 藤本喜太郎 永井社太郎 神吉音松 神沢三蔵 徳永瀬太郎 今福政吉 平井彦松 東福栄吉
 蔵川庄三郎 小林角蔵 神行左々郎   本鶴松  横田万吉  本太平